●『紅葉商店戦記』●
〜第二話・精肉ラプソディー〜

 ある晴れた昼下がり。紅葉商店へ続く道。別に荷馬車がごとごと仔牛を乗せていっている訳ではないが、その軽トラックには確かに牛肉も積まれていた。トラックはある一軒の店の前で停まる。店の看板には「精肉のヤマグチ」と書かれていた。
 「おじさん、こんちゃー!」
 トラックから降りてきた中年の男に、買い物に来ていたサカグチ アキラは元気良く挨拶した。
 「おやアキラくん、今日和。お使いかな?」
 「うん!豚バラ200、今買ったトコ!」
 店番のトモコ夫人から丁寧に包んでもらった肉を嬉しそうにかざして見せて、アキラは笑った。ヤマグチ氏もつられて笑う。この無邪気な魚屋の息子は、魚も好きだが肉も大好物である。
 「毎度あり!・・・ああそうだ、トモコ!昨日のアレ・・・」
 「ちゃんと包みましたよ」
 トモコさんはにっこりと笑った。昨日のアレとは、売れ残った肉のことである。時々こうやって、オマケを付けてくれるのがこの夫婦の良いところだ。
 「あんがとね、おじさん!」
 そしてアキラは、肉も好きだがこの夫婦も大好きなのだ。
 「おじさん、今度ウチ来たらこっちもサービスするかんね!」
 「ああ。楽しみにして・・・」
 「きゃーーー!!!」
 その時突然、ヤマグチ氏の言葉を遮るかのような悲鳴が!!!
 「な、何だ!?」
 ヤマグチ氏とアキラは声の方へと駆け出した。
 「がっはっはっはっはっはっは!!!さあ!喰え!喰うがイイ!!!」
 そこには路上でサイコロステーキの試食会を開く、額に赤文字で「肉」と書いた何とも何ともな全身タイツ(ピンク)男が!!!
 「な・・・!満開の怪人か!!」
 ぎりり、と歯軋りするアキラの横で、ヤマグチ氏は寂しそうに呟く。
 「・・・弱ったなあ・・・」
 「・・・おじさん!!」
 アキラは真っ直ぐにヤマグチ氏の顔を見ると、力強く言った。
 「ちょっと待っててくれよ!すぐ、アイツを呼んでくるから!」
 「アイツ・・・?」
 「こういう時には、現れるもんなんだぜ・・・ヒーローが!」
 にっ、と笑ってみせるアキラ。ヤマグチ氏はピンときたようだ。
 「!!米屋仮面か!!」
 アキラ撃沈。
 「あ・・・いや・・・」
 「?ワインレッドかい?」
 「・・・いや」
 「ああ、ヴァイオレットさんだね!」
 「・・・」
 「?ん〜・・・ああ!置くだけの」
 「置くだけじゃねえって(怒)!・・・とにかく、待っててくれよ!」
 アキラはビシッと敬礼してみせると、光の速さで何処かへと走り去って行った。
 「がはははは!!安心美味しい国産高級牛がこのお値段!!お買い得だぞーーー!!」
 調子にのって試食会を続ける肉怪人。奥様がたが集まってきている。
 「ちょお〜〜〜〜っと待ったあ〜〜〜!!!」
 そこに現る一つの影!!
 「む!?何奴!?」
 「一つ!人より力持ち!二つ!普段はお魚屋!三つミラクルハイパワー!!鮮魚ブルーレット、ここに見参!!」
 そう彼こそは、なるべくしてなった皆のヒーロー・鮮魚ブルーレットだったのだ!!

〜以下、戦闘開始!!〜

怪:「フン、貴様か!ウチの邪魔をしている青いヤツというのは!」
魚:「るせー!!お前らこそジャマなんだよ!!」
???:「ちょっと待ったーーー!!!」
魚&怪:「むっ!何者だ!?」
米:「紅葉の白い守護神!米屋仮面とは俺のことだ!!」
魚:「うわ〜!お前も来てくれたのか!」
米:「ふっ、まあな!(←内心、先を越されてちょっと口惜しい)」
???:「あ、今日和。満開さん、今日はステーキなんですね〜」
米:「はっ!このお美しい艶のあるお声は!!」
妻:「ヴァイオレット、です。・・・あの、米屋仮面さん・・・この衣装、やっぱり変えてもらえませんか?」
米:「却下!!(爽やかに☆)」
???:「何なら・・・僕がもっとセンスの良い服をプレゼントしましょうか・・・?」
怪:「何ヤツ!?」
米:「むっ!!またお前か!酒屋!!」
酒:「ワインレッド、って呼んでもらいたいな・・・ほら、僕に似合うじゃない」
魚:「(酒屋は無視!)どうだ怪人!!お前に勝ち目はないぞ!!」
怪:「ふん!雑魚が何人集まろうと同じ事!!」
魚:「こらー!!雑魚をバカにすんな!!安くてウマイんだぞ!!」
妻:「あ、そうですよね!炒って砕いてふりかけにしても美味しいですよね!」
酒:「それに雑魚って単位は『人』なのかな・・・」
魚:「とにかく!!こんなトコで宣伝すんじゃねえよ!!」
怪:「ふん!宣伝して何が悪い!!営業の自由だ!!」
米:「うっ!いきなりもっともな事を・・・!」
酒:「全身タイツ(ピンク)のくせに・・・」
魚:「額に『肉』のクセに!」
怪:「黙れ」
妻:「あの、でもですね、怪人さん」
怪:「はい」(素直)
妻:「わざわざ紅葉商店街にまで来て宣伝することは無いんじゃないでしょうか?あの、ここにはヤマグチさんがいらっしゃるんですし・・・」
魚:「おお!大人攻撃!!」
酒:「・・・本当の『大人攻撃』、見せてあげてもいいんだけど・・・」
全員:「結構です」
怪:「(気を取り直して)しかし奥さん!安くて美味しい肉は主婦が助かるのではないかな!!」
妻:「ん〜・・・確かにそうなんですけど・・・ウチの人、お肉好きですし・・・」
米:「や、ヤマグチさんトコだって安いし安全ですよ奥さん!!」
怪:「ふっ!しかし閉店時間間際の我が安売りには勝てまい!!」
米:「むむう・・・!」
酒:「でもさ・・・僕、スーパーのパック入りのお肉って、あんまり好きじゃないんだよね・・・トレイがかさばるから」
妻:「あ、確かにそうですね。いちいち洗って回収に出すの面倒ですし・・・」
酒:「奇遇ですね・・・僕も洗ってリサイクル派です・・・」
米:「お、俺も俺も!」
怪:「ふふん!ウチの売り場にも量り売りコーナーはある!!」
酒:「へえ・・・そうなんだ・・・」
〜その時、じっと押し黙っていた鮮魚ブルーレットが顔を上げた!!〜
魚:「・・・るせえよ・・・」
一同:「???」
魚:「ごちゃごちゃうるせえよ!!いいか、怪人!!お前んトコには、『心』がねえんだよ!!」(ドーン!!)
米:「こ、これは!!伝説の、『心作戦』・・・!!」
怪:「心?それがどうした!!儲かればいいんだ。お前らだってそうだろう?」
魚:「バカ野郎!!肉も魚も生ものだ!それを扱う俺たちには、心が!信頼が大切なんだ!!生もの以外だってそうだ!商売は―――商売は、心だ!!!」(ドドーン!!)
米:「おお・・・!!(感動)」
魚:「お前らの店は、店の人間の『顔』が見えねえ!!誰が信頼するもんか!!おじさ・・・ヤマグチさんはなあ、好意でオマケ付けてくれるんだぞ!これは、心だ!!嬉しくなっちまう、心がお得意さんをつくるんだ!!」
怪:「!!!(ガーーーン!!)」
妻:「まあ・・・ブルーレットさん、カッコイイです!感動です!!」
米&怪:「!!!!!」
酒:「そうだよね・・・やっぱり重要だよね・・・が見えるというのは・・・が(強調)」(キラーン☆)
周りの女性たち:「きゃあ〜〜〜Vvvワインレッド様、素敵〜〜〜Vvv」
怪:「うっ・・・うおおおおおおおおおお!!!!!!」(泣きながら走り去る)
酒:「フッ・・・」(髪をかきあげる)
魚:「やった!!俺の一世一代の演説、効いたみたいだな!!」
妻:「流石ですね!」
米:「(・・・そういう事にしといてやろう・・・)」←涙

この後、夫婦の人柄もあり、ますます「精肉のヤマグチ」は繁盛したらしい。こうして、またもや紅葉の平和は守られたのである!!やったぞ、米屋仮面!!(今回活躍なし)ガッツだ、鮮魚ブルーレット!!(本日の主役)ファイト!酒屋ワインレッド!!(いつも美味しいトコ取り)輝け!人妻ヴァイオレット!!(主婦ながら商店の味方なので立場難しい)紅葉の明日は君たちの手に!!

〜その数日後〜
 「おじさん、こんちゃー!!」
 「やあいらっしゃい。お使いかな?」
 「うん!」
 『精肉のヤマグチ』の前に、サカグチ アキラの姿があった。例によってお使いである。
 「アキラくん、今日は何を?」
 トモコさんも穏やかに微笑っている。二人の笑顔をみて、アキラは嬉しくなった。おしゃべりしながら買い物を済ます。
 「そういえば、この前、満開の妨害が来た時・・・」
 肉を渡しながら、ヤマグチ氏が嬉しそうに言う。
 「ブルーレット、カッコ良かったなあ!」
 「え!?」
 「うふふ。ウチの人、あれからブルーレットのファンなのよ」
 アキラはドキドキしながら頷いた。
 「そ、そうか、そうだよな!!あは、あはは・・・!!」
 にっこにこ。笑顔全開でアキラは帰路についた。途中何度かコケたが、気分はすこぶる良い。

 これだから、ヒーローはやめられない。

〜第二話・完〜

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