「紅葉商店戦記」
〜第三話・赤薔薇輪舞(ロンド)〜

 まだお日様は空高く昇っている午後。昼ご飯は終わり、しかし晩御飯の用意にはまだ時間があるため、人もまばらな紅葉商店はゆっくりとした雰囲気に包まれていた。
 そんな雰囲気にあまり似つかわしくない青年が独り、両手いっぱいに紅い薔薇を抱いて歩いている。言わずと知れた、サクラダ シロウ、その人である。彼は薔薇の消費がかなり極端に馬鹿馬鹿しくどうしようもないくらい激しいので、「ニシダ園芸」の上得意である。彼はベッドに敷く分とバスタブに入れる分、部屋に飾る分にあと持ち歩く分の薔薇の数を大まかに計算しながら歩いていた。これだけの量の薔薇を週に数回買うのだから配達を頼めばいいのだが、彼的に「薔薇を抱えて歩く自分」にご心酔なのでそれは却下だ。
 「きゃ〜vシロウさん素敵〜Vvv」
 黄色い声を掛けてくる女性たちにフッと微笑いかけたり流し目を使ったりその辺のサービスも忘れない。街の女性たちの間では、彼はこの街のヒーロー・酒屋ワインレッドと張る程の人気者であった(「私、やっぱりシロウさん!!」「ん〜・・・私はワインレッド様かな〜」という会話が素で行われている。恐ろしい)。
 「あ、バラのお兄ちゃん、こんにちわ!」
 不意に、彼に話し掛ける者があった。
 「おや・・・今日和」
 かなり視線を下に遣ると、そこには可愛らしい幼稚園児がいた。膝を落として視線を合わせてやると、彼女はニッコリと笑った。この子はニシダ園芸の子である。
 「今、帰るとこ・・・?」
 「うん!あのね、マイちゃんね、今日ね、センセイにほめられたのよ!」
 「そうなんだ・・・スゴイね・・・」
 「うん!マイちゃんね、スゴイのよ!」
 ここからひたすら「あのね」攻撃が続くのだが、合間合間に相槌を入れて大人しく聞くのがいつものパターンだ。彼は年齢に関係なく、基本的に女性には優しいのである。
 「・・・なのよ!でね、でね、隣のケンちゃんがね・・・」
 「きゃーーーーっっっ!!」
 しかしいつも通りに続くはずの「あのね」攻撃が、突然甲高い悲鳴に遮られた。
 「な、何?何かな???」
 不安げにこちらを見るマイにフッと微笑いかけて、シロウは立ち上がった。
 「何にも心配は要らないよ・・・だって、ほら・・・この街には、ヒーローがいるじゃない」
 「あ!こめやかめんとせんぎょブルーレットとさかやワインレッドとひとづまヴァイオレッドだよね!!」
 「ふふ・・・とりあえずワインレッドを呼ぶことにするよ」
 そう言ってシロウは優雅に何処かへと歩き去って行った。
 一方、悲鳴の上がった街の真ん中では
 「オーホホホホホホホホホホ!!!!さあ!どうかしら!?この綺麗なお花!!『満開』の生花コーナーは質・種類とともにお値段も納得ものよ!!」
 ド派手な深紅のドレスに身を包んだ謎の美女が満開の宣伝をしている!!!
 「ちょっと・・・待ってくれないかな・・・」
 そこに現れた紅い影!!
 「はっ!?誰!?」
 「初めまして、レディー・・・僕の事は・・・酒屋ワインレッド、と呼んでもらおうかな・・・」
 そう、彼こそは紅葉商店の紅い薔薇・酒屋ワインレッドだったのだ!!

 〜以下、戦闘開始!!〜

怪:「ハンッ!あんたね。邪魔ばかりする紅い男って」
酒:「おや、知ってるんだ・・・光栄だね」
怪:「悪名よ」
???「ちょお〜〜〜〜〜っっっと待ったあ〜〜〜〜!!!」
怪:「誰!?」
???「この街でみんなの平和を脅かす行為は許さない!!紅葉の白い守護神!米屋仮面参上!!」
怪:「ふんっ!例の白いのね」
米:「だから紅葉の白い守護神と呼んでくれ(目がかなりマジ)」
???「ちょ〜〜〜〜〜〜〜っっっと待ったーーー!!!」
怪:「また?今度は誰なの?」
???「何処の誰だと訊かれたら!応えてあげるが世の情け!!鮮魚ブルーレット、ここに見参!!」
怪:「あら。置くだけ?」
魚:「違え〜って!!もう!」
米:「ホントに?」
酒:「恥ずかしがらなくてもイイのに・・・」
魚:「(二人は無視!)兎に角!ここで迷惑行為をしてるのはお前だな!花怪じ・・・か、怪女?」
怪:「(ムッ)怪女・・・?」
米:「怪人でいいんじゃないか?人って字は男女OKだし」
魚:「そっかぁ〜そうだよな!」
酒:「失礼だな・・・華のとでも・・・」
怪:「怪人で良いわ」(ドキッパリ)
???「あの〜スイマセ〜ン!こちらで宜しいんですよね?」
米:「おお!この麗しいお声は!!」
???「ヴァイオレッド、参上、です(照れ)・・・あ、綺麗なお花ですね〜」
〜怪人は何故かムッとした!〜
米:「どうだ怪人!大人しくここから出てってもらおうか!!」
怪:「ハンッ!ボウヤたちがいくら集まったって無駄な事よ!」
魚:「誰がボウヤだ!!(怒)」
米:「ぼ、ボウヤ・・・!!(ドッキーン!!)」
魚:「???何でときめくんだよ?」
酒:「こちらのボウヤたちはともかく・・・僕もボウヤか、試してみるかい・・・?」
妻:「あ、あの!教育上宜しくないです!!」
怪:「アンタは黙ってて」
〜どうやら怪人は人妻がおキライのようだ!〜
魚:「こら!言い方ってもんがあるだろ!」
怪:「おだまり!」(ピシャリ!)
米:「お・・・おネエ様だ・・・!!」
〜何故か米屋仮面は更にときめいた!〜
酒:「(米屋は無視)とりあえず・・・僕としては早く終わらせて帰りたいんだけど・・・」
妻:「右に同じです」
魚:「そうだ!ズバッと解決しようぜ!!」
怪:「ふふん!満開のお花がどれだけ素晴らしいか教えてあげるわ」
米:「教えて下さい(屈服)」←ダメ男
魚:「おい!どうしちまったんだよホントに今日は!?」
酒:「前々から思ってたけど・・・彼、年上好きだよね・・・」
魚:「はぁ〜???」
妻:「米屋仮面さん!しっかりして下さい!」
米:「(ハッ!)危うく墜ちる所だった!!とにかく怪人!!ここから速やかに立ち去ってもらおうか!!」
怪:「うるさいわね!綺麗で安くて種類も豊富なお花、あんたたちだって嬉しいでしょう!?」
米:「もっともです。・・・いやいやいやいや!この街にはニシダさんが居る!!それで十分だ!」
魚:「そうだ!ニシダさんとこだって綺麗で安いしいっぱいあるぞ!!」
酒:「それに・・・あのお店、いつも結構無茶を聞いてくれるんだよ・・・」
妻:「(どんな無茶なのかしら・・・)」
怪:「ハンッ!それがどうしたっていうのよ。宣伝は自由だわ!それにウチはアフターサービスも含めて全国トップクラス!強いものが生き残るのが商売の世界の厳しい掟よ!」
妻:「あの・・・大変言いにくいんですけど・・・」
怪:「何よ?」
妻:「私、お花ってお墓参りの時くらいしか買わないんで、実はよく分からないんですよね・・・」
米:「じ、実は俺も・・・」
魚:「そういえば俺もばあちゃんの退院祝いの時くらいだな」
酒:「そうなの?・・・ワインと薔薇は良く似合うのに・・・(視覚的&彼的に)あとお風呂とベッドにも欠かせないよね・・・床にまくのも」
米:「それはお前だけだ」
怪:「ははんっ!そこの紅いのは置いとくとして、良く分からないんじゃあ尚更よ!口出しして欲しくないわね!」
魚:「むむっ・・・!」
妻:「はあ・・・ごめんなさい」
米:「申し訳ありません。・・・いやいやいや(理性と本能の狭間)。とにかく、口惜しいがここは酒屋に任せるしかないのか!?相当口惜しいが・・・!!(血涙)」
魚:「・・・お前、対抗意識強いよな」
酒:「じゃあ・・・僕は言わせてもらおうかな・・・」
怪:「どうせ大した言い分じゃないんでしょ?」
酒:「どうかな・・・酔わせてあげようか・・・?
怪:「お断りよ(ドキッパリ)」
妻:「ワインレッドさん、頑張って下さ〜い!」
米:「!!!」(ギリリッ・・・!!)←ジェラシー
酒:「ええ、どうも。・・・さて・・・貴女にお聞きしたいんだけど・・・」
怪:「何よ」
酒:「確か・・・『アフターサービスも含めて全国トップクラス』、だったかな・・・?」
怪:「ええそうよ!」
酒:「じゃあ・・・月に数百本の薔薇を、絶やさず用意してくれるかい・・・?」
怪:「わけないわ!」
酒:「そう・・・薔薇をお風呂に入れる時の注意点、一緒に考えてくれる・・・?」
怪:「・・・か、考えるわよ」
酒:「ふぅん・・・なら美しく投げて渡す方法は・・・?」
怪:「・・・」
酒:「あとね・・・抱いて寝ても血塗れにならない方法とか・・・」
怪:「・・・・・・・・・・・・・・知らないわよ!!」
〜怪人はとうとう怒った!!〜
怪:「甘えてんじゃないわよ!自分で考えなさいな!!アフターサービスにも常識ってもんがあるでしょう!!?そんなことしてやる花屋なんて・・・」
酒:「・・・ニシダさんはね、考えてくれたよ・・・」
怪:「!そ、それはあんたがお得意さんだからでしょ!!」
酒:「僕が・・・初めて一本だけ、買ったときにね・・・」
怪:「!!!!」
酒:「・・・アフターサービスって・・・大事だよね・・・
怪:「くっ・・・!口惜しい!!口惜しいわーーーーっっっ!!!(ダッ!)」
〜怪人は花びらを撒き散らしつつ去っていった!〜
米:「おお!!解決か!!」(心境複雑)
魚:「すげえぜ酒屋〜!!たまにはやるじゃん!!」(作者注※今までも彼が居なきゃ解決してません)
妻:「流石ですね!お疲れ様です!!」
酒:「・・・あ」
魚:「ど、どうした!?」
酒:「・・・お近づきのしるしに、この薔薇を差し上げようと思ってたのに・・・」
米:「(爽やかに無視★)よし、帰るか!」

 こうしてまたもや紅葉商店の平穏は守られた!!米屋仮面(嫉妬魔人)!!鮮魚ブルーレット(単純坊や)!!酒屋ワインレッド(薔薇妖怪)!!人妻ヴァイオレット(???)!!彼ら在る限り紅葉は不滅だ!!多分!!

〜数日後〜
 サクラダ シロウは例によってニシダ園芸に薔薇を買いに来ていた。両手いっぱいに薔薇を抱えて店を出ようとすると、小さなこの店の住人に鉢合わせた。
 「バラのお兄ちゃん、こんにちわ!」
 マイである。
 「やあ、今日和・・・」
 何時も通り視線を合わせてやると、マイはまた嬉しそうに喋り始めた。
 「あのね、あのね、この前『まんかい』のヘンなおばさんが来た時にね!」
 「うん・・・」
 「あのね、さかやワインレッドがマイちゃんのお店を助けてくれたんだって!!」
 「そう・・・良かったね」
 「うん!でね、でね、マイちゃんね・・・」
 マイはニッコリ笑った。
 「さかやワインレッド、大好きなのよ!!」
 「ふふ・・・そうなんだ」
 シロウは思わず口元を綻ばせた。
 「うん!でもね、隣のケンちゃんの方が、もっと好きなのよ!!」
 シロウ、人生初の敗北。
 「そ、そうなんだ・・・」
 「うん!!」
 それからしばらく「あのね」攻撃を一身に受けながら、シロウは思う。

 満開がいくら頑張ろうと、この看板娘には敵うまい、と。

〜第三話・完〜

●前回と今回、後日談が付いてますが、こうすると何となくシリアスっぽくてイヤだなあ(笑)。ていうか最近思った通りに書けません。その場書きの限界+スランプでしょうか・・・もっとコイツら面白いハズなんだけどなあ。

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