ここは紅葉商店街。今日も大賑わいとは言えないが、それなりに賑わっている。特に八百屋、肉屋、魚屋。ここら辺は食事の用意に忙しい主婦たちで、いつも活気があった。
それなりに忙しい紅葉商店だが、しかし、大抵何時も暇な店もある。それは、「錠前ゴショガワラ」。いざという時に大変頼りになるが、如何せん「いざ」という時しか頼りにならない職種なので、仕方ないと言えよう。おまけに、紅葉商店街は平和な街である。まあ、ゴショガワラ氏本人曰く、「自分が暇な方が良い。・・・平和で良い」との事だ。ゴショガワラ氏は、職人気質で真面目な漢(をとこ)であり、無口ながらも「いざ」という時の頼もしさから皆に尊敬され、愛されている漢であった。
そんな漢の店の扉が、久々に叩かれた。
「すいませ〜ん」
可憐な声と共に入ってきたのは、美貌の人妻・・・ヤマノ カツエであった。
「・・・いらっしゃい」
何時も暇なのに関らず、「いざ」という事態に備え常にきちんと店に居るゴショガワラ氏は、視線を上げて客を見た。切羽詰った様子ではないと分かり、密かにほっとする。
「あの、合鍵をお願いしたいんですけれど・・・」
「・・・」
氏は黙って手を差し出した。カツエはその手に鍵を渡す。
「二本目、ですな。この鍵は」
「え!一目で分かっちゃうんですね!!流石です〜!」
「・・・長いですから。この商売」
このままの雰囲気で是非「不器用な男ですから・・・」とか言ってもらいたい(氏に憧れる青年一同の希望)。
「すいません。前も折角作って頂いたのに・・・主人が、出張先でなくしてしまって」
本当に済まなそうに肩を落とすカツエに、口の端だけをやや吊り上げて微笑みかける。どこかぎこちない笑顔だが、精一杯相手を安心させているつもりなのだろう。
「・・・5分で出来ます。待ちますか?」
「あ、はい!宜しくお願いします!」
手で来客用の椅子を示すゴショガワラ氏に従い、カツエが腰を下ろそうとしたその時―――
「きゃーーーーーっっっ!!!!」
例によって悲鳴が!!
「あら。満開かしら?」
「・・・最近多いな」
「あ、あの、私、ちょっと用があるので後でまた来ますね!!」
カツエは慌ただしく一礼すると、店を後にした。その後姿を見送り、氏は合鍵の製作に入った。
その頃、街の中心部では
「アッハッハッハッハ!!どうだいこの完璧なセキュリティシステム!!レディ達の安全は満開のキーセンターにお・ま・か・せ・さ!!」
間違いだらけの銀色コートに身を包んだ間違いだらけの銀髪怪人がツッコミどころ満載の銀色ギター(鍵の形をしている)を抱えて宣伝している!!!
「ちょっと、待ってくださ〜い!!」
そこに現る一つの影!!
「んっ!?何者!?」
「あの、私人妻ヴァイオレットと申します!ここでそういうアレは、困ります!!」
そう、彼女こそ紅葉のアイドル・人妻ヴァイオレットその人だったのだ!!
〜以下、戦闘開始!!〜
怪:「ほほう。貴女が例の人妻ヴァイオレット・・・噂に違わず素敵な方だ・・・」
妻:「え。あ、その、そんなこと・・・」(赤面)
???:「ちょおおおおっっっと待ったあああああ!!!」
怪:「むっ!?誰だ!!?」
魚:「迷った時は俺を呼べ!!ピンチの時は俺を呼べ!!紅葉の平和を守る為、鮮魚ブルーレット!ここに見参!!!」
怪:「はんっ!君が青いネンネちゃん(古代語)か!」
魚:「???ねんね・・・?」
妻:「???」
???:「ふ・・・呆れた古代語だね・・・」
怪:「(ムカっ!)何者だ!!」
酒:「見た目通りに中身も間違いだらけみたいだね・・・君に名乗るのは勿体無いから・・・」
〜酒屋は流し目で周りの女の子たちを見た!〜
女の子たち:「きゃあ〜!!!酒屋ワインレッドさま〜Vvv」
酒:「と、いう者さ・・・」
〜酒屋は自信深げに髪をかきあげた!!〜
魚:「(何か、今日の酒屋モノスゴク機嫌悪い・・・?)」
怪:「む、むかつく・・・!!!!」(ぎりり・・・っ!!)
???:「そうだ!!間違いだらけなのはお前もだろう!!?」
魚:「誰だ!!?」
米:「紅葉の白いアイツ、米屋仮面と呼んでくれ!!」
妻:「しろいあいつ、ですか?」
酒:「気にすることは、無いですよ・・・くだらない事です・・・」
米:「(むかっ!)」
魚:「(やっぱり今日の酒屋、相当機嫌悪い・・・!!)」
米:「とにかく!俺が来たからにはお前の好きにはさせないぞ鍵怪人!!」
怪:「ふんっ!ボウヤたちが何人集まろうと無駄なこと!」
魚:「誰がボウヤだ!!(怒)」
米:「そうだふざけるな!!!(怒!)」
妻:「(・・・花怪人の時と反応が違います・・・?)」
酒:「ボウヤ、ね・・・ふん」
〜酒屋は鼻で笑った!!〜
魚:「(怖え!!今日の酒屋何か怖え!!)」
妻:「ええと、鍵怪人さん?」
怪:「何だい?」
妻:「ここには、とっても素敵な錠前屋さんがいらっしゃるんです!ですから、その、ここでの宣伝は止めて頂けませんか?」
米:「そ、そう、だ!(ちょっと「素敵」発言に嫉妬)」←結構ゴショガワラ氏に好感を持っている
魚:「そうだそうだ!!すっげえカッコイイんだぜ、ゴショガワラさん!!」←氏に憧れてる
酒:「ああそうさ全くさ!!・・・君なんか、目じゃないね・・・」←猛烈☆ゴショガワラー(ファンクラブ会員NO.001)
〜酒屋は一瞬熱く叫んだ!!(百年に一度)〜
魚:「(・・・なるほど・・・)」
怪:「ふっ!しかし最新のセキュリティシステム!!安全確実電子ロック!!低価格高サービス!!鍵は安全な方が、君たちにも良いだろう!?」
妻:「で、でも、ゴショガワラさんの技術だって物凄いですよ!!」
米:「そうだ!困った時にはすぐに来てくれる!!価格もそんなに高くないし!!」
魚:「漢は黙って実行だし!!」
酒:「不器用ながらも誠実で優しい真の漢だし・・・何時も緊急事態に備えてお店にきちんといらっしゃるし・・・鍵を失くして困っている子供が居ればタダで鍵を開けてくれるし(経験者)・・・何と言っても(以下、三日三晩は続く)」
米:「(酒屋は無視!)とにかく!!お前みたいな間違い怪人はお呼びじゃない!!」
怪:「くっ・・・!何となくやりにくい雰囲気だ!!」
酒:「分かったら、さっさと尻尾を巻いて帰るがいいさ・・・」
〜酒屋の殺気に気圧されて、怪人は逃げ腰になった!!〜
???:「少し、待ってくれないか」
〜そこに割り込む渋い声!!〜
酒:「あ、貴方は・・・!!」
???:「少しで良い。話がしたいんだ」
魚:「ご、ゴショガワラさんっ!!」
〜そう、彼こそは『紅葉一渋い漢』、ゴショガワラ ゴンゾウであった!!〜
妻:「まあ。どうしてこちらに?」
ゴ:「家内に、行って来い、と言われて・・・」
米:「ああ、でも、もう大丈夫ですよ!!満開の怪人は、撤退したい様ですし」
怪:「くっ・・・!」
ゴ:「いや。彼と話がしたいんだ」
魚:「ええっ!?どうして!?」
ゴ:「・・・鍵師、だからだ」
酒:「(か、格好良い・・・!!)」(めろりん)
魚:「で、でもコイツ、ゴショガワラさんの邪魔しにきたんだよ!!」
米:「そうですよゴショガワラさん!こいつらに歩み寄りの精神なんて・・・」
酒:「五月蝿いよ二人とも・・・(ジロリ)」
〜酒屋は冷たい目(−273度・絶対零度)で二人を見た!!〜
米&魚:「(ゾクゾクゾクッッッ!!)」
酒:「ゴショガワラさんがお話したいと仰ってるんだから、黙っていなよ・・・君。君も逃げようなんて思わずにここで話したまえ・・・(ギロリ)」
怪:「ヒッ!!(びくぅっ!!)」
妻:「ゴショガワラさん、何についてのお話を?」
ゴ:「うむ・・・鍵について、だが」
妻:「はい」
ゴ:「最近・・・受け継いだ技術だけでは、皆の安全を守れなくなる日が来ると、思う」
魚:「そんな事・・・」
ゴ:「いや。確かにこの街は平和だ。・・・嬉しい。しかし、そうでない街も、ある」
妻:「・・・」
ゴ:「・・・君の言う通りだ。鍵は、安全な方が、良い。・・・皆が、安全なのが、良い」
怪:「・・・!!!!!!」
〜怪人はえらく胸を打たれたようだ!!〜
酒:「・・・!!!!!!」
〜酒屋もハートに直撃のようだ!!〜
米:「ゴショガワラさん・・・でも、この街には貴方が必要なんだ!」
酒:「そうです・・・絶対、そうです・・・!!」(力説)
妻:「その通りです!」
魚:「なあ!!弱気にならないでよ!ゴショガワラさんっ!!!」(半泣き)
ゴ:「・・・ありがとう。だが、心配はいらない。・・・店を、自分の代で潰す事は、ない」
全員:「(ほっ・・・)」
ゴ:「だが・・・見直しは、要る」
魚:「え・・・?どういう事?」
〜ゴショガワラ氏は微かに微笑って怪人を見た!〜
ゴ:「我が家には、代代伝わる技術が在る。だが、それだけでは、駄目だ。新しい鍵に、対応出来ない。・・・逆も、そうだ。この街には、職人にしか開けられない鍵が、ある。・・・だから」
怪:「は、はい!」
ゴ:「困っている人が居る限り、お互い、助け合おう。・・・人を、助ける為に」
怪:「!!!・・・し、師匠と呼ばせて下さいっっっ!!!!!」(感涙!!)
ゴ:「それは、困る。・・・自分も、君に『今の技術』を教えてもらいたいから、な」
米:「漢だ・・・!!あんた漢だよゴショガワラさん・・・!!」(感涙!)
妻:「温故知新ですね〜」
魚:「ご、ゴショガワラさ〜〜〜〜んっ!!」(感涙!!)
酒:「大きい・・・大きいよ、ゴショガワラさん・・・!!」
〜酒屋はそっと目元を拭った!!〜
そうして、今回は互いが互いに弟子入りするという形で解決した!!正に平和の守り手による平和の為の平和な解決だ!!行け!ゴショガワラさん!!頑張れ!!ゴショガワラさん!!紅葉の平和は貴方の手にも!!!
数分後。ヤマノ カツエは「錠前ゴショガワラ」を再び訪れていた。
「・・・出来てますよ」
ゴショガワラ氏はそう言うと、真新しい銀色の鍵とマスターキーをカツエに手渡した。
「どうもありがとうございます〜!」
「いや・・・もう失くさないようにと、ご主人に」
「はい!」
その時、どこかしら見覚えのある青年が店に入って来た。見るからに緊張している。
「お、お邪魔します!!」
ゴショガワラ氏は微笑むと青年に手招きして側に来させた。
「・・・早かったな」
「は、はい!!」
不思議そうに二人を眺めるカツエに、氏は言う。
「・・・これは、今日から自分の師でもあり、弟子でもある男です」
「はいっ!これから宜しくお願いします!!」
嬉しそうに頭を下げる青年に、カツエは優しく微笑んだ。自分たちが守っているのとは違う、紅葉のもう一つの平和は、当分守られるだろう。
〜第四話・完〜