『紅葉商店戦記』
第六話〜八百屋シンフォニー〜

 ここは紅葉商店街。今日もそこそこの活気があり、平和に時は流れて行く。そんな紅葉商店の通りを、あまり平和でない顔をして一人の青年が歩いていた。彼の名はサカグチ アキラ。愛すべき魚屋の看板息子である。
 「はあ〜〜〜・・・」
 快活な彼には珍しく、物憂げなため息が幾度と無く漏れる。
 「はあ〜〜〜・・・」
 と、前方から同じようなため息が聞こえてきた。アキラが顔を上げると、そこにはやはりあまり平和でない顔をした、幼馴染のハラダ ヨウヘイが。
 「お〜・・・ヨウヘイ、買い物?」
 「あ〜・・・うん、まあ、そうだ。お前も?」
 「ん。お使い・・・アイツんちに」
 「・・・・・・・・・俺も」
 「「はああ〜〜〜〜・・・」」
 二人してがっくりと肩を落として向かう先は。いつでも、おそらく紅葉商店街では一番活気のある、「カワムラ青果」だった。

 「へいらっしゃい!!・・・てなんだ、お前らかよ。しけた顔並べて来んな。活気が逃げちまう」
 「「うるせー!!」」
 彼らを威勢良く迎えてにべも無く追い払うのはカワムラさんちの長男坊・ダイスケであった。何を隠そうこのダイスケとアキラ、ヨウヘイは同級生なのである。
 「まあ、買いたいモンがあるならさっさと買って帰んな。邪魔だぜ・・・っと、いらっしゃいませ〜!!こちらお安いですよ奥さん!」
 同級生なのはいいのだが、どうもこのダイスケとアキラたちは馬が合わない。原因は分からないのだが、一方的にダイスケがアキラたちを嫌っているようにも思える。
 「ああもう!!おいダイスケ!!玉ねぎとにんじん!あとジャガイモ!!」
 「自分で取ってお袋(会計担当)んとこ行けよ。・・・あ、奥さんこちらですね〜お持ち致します」
 「ダイスケ、白菜は・・・」
 「探せよ。・・・あ、奥さ〜ん!はいはい、キャベツはそちらです〜」
 「(む、ムカツク・・・!!)」(×2)
 とりあえず二人して肩を怒らせながら野菜を手にカワムラ夫人の所に行くと、夫人は申し訳なさそうに頭を下げた。
 「ごめんなさいね。ウチのダイスケってば・・・ヨウヘイくん、アキラちゃん、気を悪くしないでね?」
 「だ、大丈夫ですよおばさん!!何時もの事ですし」
 「そ、そうだよおばちゃん!(ていうかなんで俺はちゃん付け?)」
 「そう?あの子あなたたちだけにはあんなつっけんどなのよねえ・・・」
 その時――――
 「きゃあああ〜〜〜〜〜!!!!」
 例によって悲鳴が!!!
 「!?お、おばさん、会計も途中だけどまた後で来ます!」
 「お、俺も!!ごめんね!!」
 「?ええ、まあちゃんととっておくからいってらっしゃい」
 「はい!行ってきます!!」(×2)
 「じ、じゃあヨウヘイ、また後でな!!」
 「お、おう。また後で・・・」
 二人して違う方向に駆け出した後、街の中心には二人のヒーローの姿があった。

 「紅葉の白い貴公子・米屋仮面参上!!」
 「世界に悪がある限り!!この世に助けが要る限り!!俺は何時でも飛んでくる!!鮮魚ブルーレット、只今見参!!」
 「お、今日はお前と同時か」
 「へへっ!・・・さあて、と。今日は何怪人なんだ?」
 闘志に燃える二人の前に、本日の怪人は現れた!!
 「ああ、初めまして〜。私満開の青果コーナー担当のウエダと申します〜」
 「・・・・・・・・・・う、ウエダ怪人・・・?」
 「いや、青果怪人・・・まあ馴染み深い所で八百屋怪人でいいだろ」
 「じゃあそれでよろしくお願いします〜」
 「はあどうも・・・」

〜以下、戦闘開始!!〜
魚:「おい!八百屋怪人!!よりにもよって八百屋たあイイ度胸だな!!」
米:「そうだ!あの安さにはどう足掻いたって勝てまい!!」
怪:「はあ・・・そうですねえ」
魚:「(な、何か調子狂う;)」
米:「サービスだって・・・・・・・・・まあ、個人的にあの長男坊は何だがご夫婦はいい人だ!!」
魚:「そうだ!ダイスケはアレだけど、おっちゃんとおばちゃんはイイ感じに優しいもんな!!」
怪:「ええ、存じております〜。・・・あ、でもですね、ウチも色々・・・」
???「あ、今日和〜。遅れました〜」
米:「おお!!この麗しいお声は!!」
妻:「人妻ヴァイオレット、です。あ、今日は何でしょう?」
怪:「あ〜、私満開の青果コーナー担当のウエダと申します〜」
妻:「まあ。よろしくお願い致します〜」
魚:「(・・・雰囲気が似てる・・・)」
???「まったく・・・今日の怪人はやる気があるのかな・・・?」
米:「むっ!!それはお前には言われたくないだろうがこのムカツク声と喋りは・・・!!」
酒:「やあ・・・酒屋ワインレッド、見ざ・・・ん・・・たまには君(ブルーレット)の真似でもして・・・登場セリフでも言ってみようかな・・・?」(←結構ヒマだったらしい)
魚:「おう!!」
酒:「じゃあ、失礼して・・・世界中がNoと言っても、僕はYesと言ってあげるよ・・・ワインレッド、見参」(キラーン☆)
周りの女の子たち:「きゃああ〜〜〜〜〜Vvvワインレッド様ぁ〜〜〜〜Vvv」
米:「(むっかー!!)騙されてるだろ皆!!?だって、なあ!?世界中が・・・ってうわーーーっっっ!!!(鳥肌)」
酒:「似合う似合わないは、あると思うよ・・・」
米:「(むかむかむか!!!)」
魚:「それはそれとして、八百屋怪人!!お前に勝ち目はちっとも無いぞ!!」
怪:「はあ・・・ですよね〜」
妻:「まあ!ウエダ怪人さんって、今までの人たちと違って謙虚なんですね〜」
怪:「いや〜何時も皆から押しが弱いとか頼りないって言われてます〜(笑)」
酒:「・・・・・・・・・・・・・・・・世間話?」
米:「(笑)まで付けて本格的に世間話だな・・・」
魚:「っていうか・・・これが普通なのかも???」
怪:「あ。そうそう、一応ウチの宣伝もさせてもらいますね」
米:「ダメだ!断じて、ダメだ!!」
怪:「え・・・あの、2,3分で終わりますから・・・」
酒:「ん〜・・・そこで許すと、ね・・・長くなるから・・・」
怪:「お願いします〜!早口で喋りますから〜」
米:「ダメったら、ダメだ!!」
妻:「あ、あの、でも少しくらいなら聞いてあげても・・・」
米:「ですよね」
魚:「(・・・米屋・・・)まあ、何言ったってカワムラさんちの優勢は変わんねえもんな」
酒:「まあ、今日はあまりにも楽だし・・・イイよ。本当に2,3分以内で終わらせてもらえれば・・・」
怪:「はい!!ありがとうございます〜!!では・・・『満開の青果コーナーでは毎週火曜日に袋に詰め放題200円均一を行っております〜。また、毎月8、3、1のつく日は大安売りです。スーパー満開でお買い物の際には、ついでにでも寄ってみて下さい』・・・あ、『お買い物のついでに色んなものが一度に揃う、これが満開の長所です〜』、はい、以上です〜。2分越えました・・・?」
酒:「・・・一分も経ってないよ」
怪:「良かった〜。あ、それでは失礼致しました〜では〜」
妻:「はいさようなら〜」
〜怪人は頭を下げながら帰っていった!!〜
酒:「・・・」
米:「・・・」
魚:「・・・」
妻:「短くて分かりやすい宣伝でしたね〜」
米:「いや奥さん、そこ感心するとこじゃあ・・・」
魚:「ま、まあカワムラさんにゃ勝てないよ!うん!!」
酒:「・・・まあ、そういうことに・・・」
魚:「ええっ!?」←酒屋がそういう態度を取ると不安になるらしい
米:「とにかく!!今日はあっさり片が付いたな!!これにて解散だ☆」(やけっぱち)

 そうして、シリーズ初めて怪人がその目的を果たしつつ平和に終わった!!凄いぞウエダ怪人!!やったぞウエダ怪人!!満開の青果コーナーの売上向上間違いなしだ!!カワムラさんちの売上もあんまり変わらないけどね!!とりあへず紅葉の平和も守られた!!やったぜ紅葉★4!!ひゅう!!(なげやり)

 「おばちゃん、ごめんね!!」
 「おばさん、お待たせしました!!」
 ウエダ怪人(すっかり八百屋怪人でなくなってる)が街を去った数分後、カワムラ青果の前にはアキラとヨウヘイの二人がダッシュで現れていた。
 「ほほう・・・お前ら、ウチでキープたあいい度胸じゃねえか」
 「む・・・し、仕方ないだろ、急用があったんだから」
 「へいへい。さっさと会計して帰れ」
 「(むっかー!!)」(×2)
 「やあ・・・三人とも、久しぶりだね・・・」
 ぷんぷんと文字が出てきそうな怒り具合の二人と冷静なダイスケの前に、薔薇を携えた勘違い野郎いやさ美青年が現れた。言うまでも無くサクラダ シロウ其の人である。
 「お、いらっしゃい!!」
 「げっ!サクラダ!!」
 「シロウ兄ちゃん!久しぶり〜!」
 三者三様の反応に口元を緩ませつつ、シロウはダイスケに向き合った。
 「ふふ・・・とりあえず今日は南瓜と茄子を頂こうかな・・・」
 「へい、毎度あり!!」
 「あーーー!!!シロウ兄ちゃんにはちゃんと対応するんだ〜!!」
 「おいダイスケ!それはないだろ!!」
 「きゃんきゃん吠えるな、うるせえよ。・・・はい、サクラダさん、どうぞ」
 「ふふ・・・相変わらず君たちは、仲が良いね」
 「ええっっっ!!!?」(×3)
 「そ、そそそそれは無いっスよサクラダさん!!」
 「そ、そうだよ!!何で俺がこんなヤツと・・・」
 「てめえ何処に目ぇ付けてんだよサクラダ!!」
 同時にまくし立てる3人にニッコリ微笑うと、シロウは優雅に会計を済ませて優美に帰っていった。
 「・・・と、とにかくだ、さっさと金払って品物もって帰れ!」
 「言われなくてもそうする!」
 「おうよ!」
 最後の最後までぎゃーぎゃーと文句を言い合ってダイスケと二人は別れたが、その風景は子供の頃からちっとも変わっていない。
 結局、何だかんだ言ったってずっとこの調子なのは、彼ら3人以外は皆知っているところなのであった。

第六話・完

●やっぱり最近スランプ気味です;すいませんすいません紅葉商店の皆さん!!切腹!!

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