「紅葉商店戦記」
〜幕間・戦士たちの数え唄〜
今日は祝日。のんきでのどかな紅葉商店街は、店舗の大半が「本日店休日」の札を下げている。「ハラダ米店」と「サカグチ鮮魚」も例外ではなかった。
「オッス!!ヨウヘイ、迎えに来たぜ〜!」
朝一番、その「ハラダ米店」の裏口(住居一体型店舗なので、裏口から住居サイドに入れる)に意気揚揚と乗り込んできたのは、「サカグチ鮮魚」の愛すべき三男坊・アキラであった。
「おう!早かったな」
出てきたのは、ちょっと年齢高めの主婦層に人気の好青年・ヨウヘイだ。米屋の次男坊である。
「へへ、出前迅速ってな!」
「お前んち出前やってないだろ・・・」
楽しげに喋りながら静かな街を歩くこの二人、小さい時から大の仲良しである。お互いの店が休みの時は、こうやってよく遊んでいる。
「そういえばさぁ〜、こないだの停電・・・」
「ああうん、あれには参ったな。ところで最近の・・・お!」
ヨウヘイの歩みと言葉と視線が止まった。不思議に思ったアキラだが、その視線を追ってみてああなるほど、と納得する。視線の先には、一人の綺麗な女性が居た。
「あら・・・おはよう御座います」
こちらに気付いてニッコリ、と微笑みかけるその女性は、美貌の人妻・ヤマノ カツエ、その人だった。
「オハヨーございやーす!!」
「お、おはようございますっ!!良い朝ですねっ!!!」
「ええ本当に・・・」
元気に返すアキラと目の色変えて返すヨウヘイだが、カツエはどちらにも柔和な笑顔で応える。
「ど、どどどどうなさったんですかこんな朝早くに?」
「ええ、ちょっと・・・」
ここでちょっぴり頬を紅くするカツエにヨウヘイ・撃沈。
「主人が出張から帰ってくるので、お迎えに・・・v」
ヨウヘイ・沈没。
「そ、そうですか・・・!!(血涙)」
「へぇ〜!偉いなあ。流石ヤマノさんだ」
カツエは照れながらニッコリ笑った。ヨウヘイ・再浮上。と、ここでアキラが何か思い出したように言った。
「あ!そうそう。前から思ってたんだけど、ヤマノさんって何か“人妻ヴァイオレット”に似てるよね!」
「「え・・・!!!」」
何気ないアキラの一言に、二人は同時に反応する。
「ど、どどどどどうしてそんな風に思うんだ!?」
「え・・・いや、声とか、似てるなぁ〜って・・・」
「そ、そんな事、ない、ですよ?ねっ?」
「ん〜・・・まあ、そうかも」
「「(ほっ・・・)」」
ヤマノ カツエはある日、「米屋仮面」ことハラダ ヨウヘイに情熱的かつ強引にスカウトされて「人妻ヴァイオレット」になっ(てしまっ)たので、この二人はお互いの正体を知っているのだ!
「まあ似てるっていやあお前は米屋仮面に似てるよな!」
「(ドッキーン!!)な、何を根拠にそんな・・・」
「ん〜。やっぱ声かな」
「そ、そんな事は」
「やあ・・・どうしたんだい?こんな時間に・・・」
必死に言い逃れようとするヨウヘイの前に、薔薇を携えた一人の勘違い野郎美青年が現れた!
「むっ!お前は・・・!!」
「あら。おはよう御座います〜」
「お!シロウ兄ちゃんじゃん!」
「お久しぶり・・・」
そう、彼は「サクラダ酒店」の若き主・シロウだった!!(ちなみに彼は店を継ぐ時に店名を「Sakurada-WineSeller」にしたかったようだが、前代の遺言により阻まれた)
〜以下、雑談開始!!〜
ヨウヘイ:「!ほらほらアキラ!!コイツなんか、俺が米屋仮面に似てる以上に酒屋ワインレッドに似てるじゃないか!!」
アキラ:「お!そういえば・・・薔薇持ってるトコなんてそっくりだな!」
シロウ:「ふふ・・・彼に似てる?・・・光栄だね・・・」
〜シロウ、さり気なくかわす〜
シ:「・・・そして君は・・・似てるよね、置くだけに・・・」
ア:「置くだけじゃねえってば!!(怒!)・・・い、いや、何言ってんだよシロウ兄ちゃん!!俺がブルーレットな訳ないじゃないか(棒読み)」
シ:「・・・似てる、って言っただけなんだけど・・・」
ア:「(ギクッ!!)あ、いや、だから、似てる訳ないじゃない、か・・・(だんだん小声)」
カツエ:「ああでも、確かに声とか似てるかもしれませんね〜」
ア:「い、いやいやいや!似てねえよ!!うん!!」
ヨ:「ん、まあ、そうかもなあ・・・」
ア:「だろ!?」
ヨ:「あっちの方がきっとカッコイイだろうな(笑)」
ア:「(笑)じゃねえよ!(笑)じゃ!!」
カ:「カッコイイといえば、ワインレッドさんも米屋仮面さんもブルーレットさんもカッコイイですよね」
ヨ&ア:「えっ・・・!?(ドッキーンッ!!)」
シ:「でも・・・一番はやはりワインレッドでしょうね・・・」
ヨ:「いやいやいや!!米屋仮面ですよね奥さん!!(目がマジ)」
ア:「あ、その、ん、やっぱ、ブルーレット、カッコイイ、かな・・・?(赤面)」
カ:「(にっこり)」
〜シロウは自信ありげに微笑み、ヨウヘイは溢れる鼻血を抑えきれず、アキラは「そ、そうか!やっぱそうだよな!!」と照れながら頷いた!〜
ヨ:「ああ・・・vやっぱり奥さんは素敵だ・・・!!(ぐっ!!)」
ア:「・・・お前、今相当不思議だぞ?」(ヨウヘイは涙と鼻血で前が見えない状態だった!)
カ:「あ!不思議といえば、知ってます?紅葉商店の七不思議!」
シ:「一つは貴女の美しさでしょうね・・・」
ヨ&ア&作者:「ブーーーーッッッ!!!」(思いっきり吹き出す)
カ:「やだ、サクラダさんったら・・・(赤面)」
ヨ:「ブーーーッッ!!」(鼻血)
ア:「(ヨウヘイは無視!)ええと、ちょっと聞いたことあるぜ、七不思議・・・一つだけ知ってる」
カ:「え?どういうのですか?」
ア:「夜中の0時きっかりにホンダ書店(笑)の前を通ると、その日一日やたらと辞書を引きたくなるんだってさ」
ヨ:「・・・はあ?」
シ:「・・・別に怖い不思議じゃないんだね・・・」
ア:「そ!単なる不思議!」
カ:「私、そんな怖い話知りませんでした・・・(怯え)」
男ども:「・・・え?」
カ:「ああでも、他のを三つ知ってますよ!」
ヨ:「どんなのですか?」
カ:「ええと、先ずは『キムラ薬局の秘密』です。キムラさんのお店、一般では手に入らない秘密のお薬を売ってるとかいう噂です」
ア:「え!?キムラさんとこ!?」
カ:「ええ、でも、噂ですから・・・」
ヨ:「(・・・洒落になんないような“クスリ”だったらどうしよう・・・)」
シ:「(クスッ)」
ヨ:「(な、なななななんだ今の意味深な笑いはっ!!?)」(汗)
ア:「で、他の二つは!?」(興味深々)
カ:「ええ!次は『真夜中のちんどんや』です!!」←楽しくなってきたらしい
ア:「ど、どんなの!?」
カ:「はい。真夜中に商店街を歩くと、どこからか不思議な音楽と売り口上が聞こえてくるけれど、決して姿は見えないという・・・」
ア:「え〜!怖え〜!」
カ:「?楽しそうじゃないですか?」
男ども:「・・・え?」
カ:「もう一つは、『ニシダ園芸の怪』です」
シ:「へえ・・・ニシダさんの・・・」
カ:「はい。ニシダさん、どんなお花をどんな季節にどれだけ頼んでも、必ず入荷してくれるんですって。そこから、あのお店には四次元ポケットがあるに違いない!って、噂です。・・・ふふ、ニシダさんの仕事熱心から出た良い噂ですね」
ア:「ははっ、違いないや!」
ヨ:「羨ましいくらいだな」
シ:「・・・・・・・・・・・・・・バレないようにって、言っといたのに・・・(ぼそっ)」
ヨ:「!!??」(滝汗)
ア:「え〜と、俺のとヤマノさんのを合わせて四つか。あと三つ、二人は何か知らねえの?」
ヨ:「(気を取り直して)俺、一つなら・・・『謎の文房具屋』の噂」
ア:「え!?何々!?知らねえ知らねえ!!」
ヨ:「お得意さんのおばちゃんに聞いたんだけどな。時折、何も無かったハズの場所に、古ぼけた文房具屋が出現するって噂。そこの店主が若くてイイ男だとか何とか・・・まあ、根も葉もない噂だけどな」
カ:「あ!でも私、前に住んでいた町でも同じ噂聞きました〜!」
ア:「へえ〜!じゃあチェーン店なのかな!?」
シ:「・・・出張サービス、かもね・・・?」
ア:「おお!なるほど!!(嬉々)」
ヨ:「(・・・アキラ、お前イイ歳して・・・ていうかサクラダのヤツ、本気じゃないだろうな?)」
シ:「僕は・・・二つ、知っているよ・・・女の子たちから聞いて、ね・・・」
ヨ:「(ムカッ!!)」←情報源・おばちゃん
ア:「おっ!七つ揃うね!」
シ:「・・・揃うけど・・・イイのかい・・・?」
ア:「え?」
シ:「じゃあ七つ目から教えてあげるけど・・・『七不思議の全てを知った者は』・・・分かる、ね?」
他三名:「(ビクッ!!)」
シ:「まあ僕はおかげで全部知っちゃったけど・・・聞くかい?最後の一つ・・・」
ア:「え、えええ〜と・・・」
「きゃ〜〜〜〜〜〜〜!!!」
〜その時、耳をつんざく甲高い悲鳴が!!〜
ヨ:「な、何だ!?」
〜勿論、こういう場合、満開の刺客が現れたに決まっている!!〜
ヨ:「あ、その、何だ、アキラ!俺、用事を思い出したから!すまん!!」
ア:「お、俺も家の手伝いがあったんだった(棒読み)んじゃ!」
カ:「私、そろそろ主人のお迎えに・・・」
シ:「僕も・・・薔薇に水をやらなきゃ・・・」
〜四者四様にその場を立ち去った直後、街の中心には4人のヒーローたちが同時に集結していた!!
米:「むっ!今日は皆同時か!」
妻:「すごい偶然ですね〜」
魚:「こんな事もあるもんなんだな」
酒:「何て言うか・・・運命を感じるね・・・」
とにかくその日も平和は守られた!!(ヤケっぱち)強いぞ紅葉のヒーローズ!!スゴイぞ紅葉の守護神ズ!!紅葉の明日は君たちの手に!!
――― 七不思議の最後にして最大の一つ・・・それは、『紅葉商店の戦士たち』。誰も(本人たちすらも)その正体を知らない事が不思議なのである ―――
〜幕間・完〜
●後書き●
本当に彼ら、米屋と人妻がお互いを知っている以外、他のヒーローが誰なのか知らないんです。不思議ですね(他人事)。
・・・・・・・・・ちなみに「七つの不思議を全て知った者は・・・」ですが、多分一般人の考える事と酒屋の考えることは違いますから。押忍。あと文具屋は気にしないで下さい(爆)。